Panasonic HHC ~ 内蔵RAMの8KB拡張

2023/06/20

 Panasonic HHC RL-H1400のRAM容量は、4KBと決して多くはありませんので、別途発売されていた、RL-H1800と同様に8KBに拡張してみることにしました。


そのために、プログラムスロットの隣のIC7のSRAMを取り外し、8KBRAMを搭載したRAM拡張基板を取り付けるようにしました。(SRAMの取り外しには、十分なスキルが必要になります。他の基板で練習した後に行うことをお勧めします。実施には自己責任でお願いします。)

IC7(HM6116LP)のSRAMを取り外しは、ハンダ吸取線でSRAMのスルーホールからハンダを吸取ります。吸い出せたら、まだピンがスルーホールの端にわずかなハンダで接合しているはずですので、ハンダコテの先で、SRAMのピンの先端を熱して左右に動かし、スルーホール中でSRAMのピンが自由に動くようします。

全てのピンがピンセットでSRAMのピンがゆらゆら動くまでに根気よく行います。うまくハンダを吸い出せないない場合は、再度スルーホールにハンダを流し込んで再トライします。部品面側、IC7(HM6116LP)と基板の隙間にマイナスのドライバーを入れ、スルーホールにダメージを与えないように少しづつ弱い力でドライバーをひねると、SRAMのピンに着いたわずかなハンダがはがれて、IC7のSRAMが外れます。

スルーホールにダメージがないことをルーペで確認し、平ばね型のICソケットをハンダ付けします。直接RAM拡張基板をハンダ付けをすることも可能ですが、4KBに戻すことも可能なようにしました。平ばね型のICソケットにしたのは、RAM拡張基板をソケットに刺しても比較的低い高さに保てるからです。


下記のRAM拡張基板回路を見てもらえればわかると思いますが、最低限の改造でRAM容量を8KBにできましたが、RAM拡張基板にIC6(74LS155)の4pin, 5pinに必要なプルアップ抵抗10Kを入れるのを忘れましたので、手作業になりますが、基板上に1/8W小型抵抗を追加してください。


以下は、組立中の専用RAM基板です。














基板のリード部分には、秋月電子通商の「基板用リードフレーム SS2.54-6SN」または、element14の"1544425-2 Lead Frame, Single-In-Line (SIL) Contact"が利用できます。1544425-2の場合には加工が必要ですので、下記図面の各ピン赤線部分を精密ニッパーなどで横一直線になるように切断してください。切断後、曲がったリード部分を真っすぐに伸ばせば、基板のスルーホールにはんだ付けできるようになるはずです。



以下は、IC6の4pin, 5pinから信号を取り出している部分です。

同じようにのこの基板を製作したい方(個人利用のみ、商用利用は禁止)は、
回路図・外形・ガーバーファイルを自己責任にて使用してください。

基板の発注先は、JLCPCBがお勧めです。下記は、切り外し前の基板外観です。





Panasonic HHC ~ 16KBプログラムカプセルの再現

2023/06/19

 eBayで見つけたレトロなコンピュータPanasonic Hand Held Computer(HHC) RL-H1400の修復を行いました。RL-H1400は、1982年に松下電器が米国および、欧州向けに充電電池駆動で、手のひらに乗るコンピュータとして発売しました。当初は、民生用・業務用の両面展開を目指したようでしたが、最も利用された用途は、米国保険業界の営業ツールのようです。様々な顧客条件に合った保険提案を即時、RL-P1004Aプリンタにプリントアウトし、販売増が期待できる営業ツールだったようです。これがeBayに出品されています。


RL-H1400の仕様:
・CPU: MOS Technology 6502(1.024MHz)
・ROM: 16KB
・RAM: 4KB
・Program ROM: 16KB, 8KB or 4KB x 3 Capsules(MaskROM or EPROM)
・Display: 26 Character LCD


RL-H1400は、電池駆動でも当時のパーソナルコンピュータ並みの性能(Apple IIも6502を採用)を発揮できました。これは、①コンパクトかつ、処理性能が高い、ROMベースFORTH言語によるOSの採用、②NMOSデバイスの消費電力を抑えるため、アクセスされたデバイスのみ電源を入れる電源スイッチングにより、低コスト・省電力・高演算性能を実現していました。当時NMOS全盛時代で、CMOSのMPUは、まだ価格・性能上の制約があったようです。


業務用として、Apple II上でSnapForthで業務用のプログラムを開発できるSDKが発売され、保険用営業ツールが幅広く開発されて、プログラムスロットには、最新保険商品のEPROMに書き込まれたプログラムが入れられていたようです。

民生用としては、各種プログラムカプセルも発売されました。プログラム言語として、SnapForth、SnapBasic、MS-BASIC、アプリケーションでは、Scientific Calculator、Portacalc、Teleconputingなどがあったようです。ROMカプセルですので、数は少ないものの、現存しているようです。これらのカプセルは、当時サンフランシスコのFriends Amis社で開発されたようですが、現時点では、Friends Amis社は存続していないようです。

そのため、保険用営業ツールで使用された、モトローラ社のMCM68764というEPROMを書き換えて流用しているようです。ただ、MCM68764は、8KB以下のカプセルにしか使えないません。16KBカプセルの場合は、27128系のEPROMを使い、24ピンに変換した例もあるものの、成功していないようです。


そこで、Panasonic HHCを蘇らせるため、劣化している内蔵NiCd充電電池をNi-MH電池に交換するとともに、16KBカプセルにもチャレンジしてみることにしました。

モトローラ社のMCM68764は、24ピン8K x 8(64Kbits)のEPROMですが、ピン数の制約により16KBカプセルに使える24ピンのEPROMは、現存しません。16KBに拡張するためには27128系のEPROMを使用するしかありませんが、MCM68764と同じように使用できるEPROMを探すことが必要になります。


では、なぜMCM68764が使われてたのでしょうか?その理由を調べるため、プログラムカプセル周辺の回路を下記のように確認してみました。


①CMOSの27128系のEPROMの場合、EPROMの電源スイッチがOFF時に、入力・出力端子に寄生ダイオードがあるため、アドレス・データバスから電流を吸い込んでしまいますので、システムとして動作できません。

②NMOSの27128系のEPROMの場合、MCM68764のように、電源スイッチングしても動作可能な製品と電源スイッチングを行った場合、アドレス・データバスの電圧によって、言わゆるラッチアップ現象(異常電流)が発生するものがあるようです。MCM68764の場合でも電源に0.01uFのコンデンサを取付け、電源の立ち上が遅くしてラッチアップを回避しようとしているようです。

従って、下記の条件を満たすNMOSのEPROMを探すことにしました。

条件1:28ピンDIPパッケージでは、スロットに入らないので、市場で入手可能なPLCCまたは、フラットパッケージのNMOS EPROMを探す

条件2:ラッチアップ現象が起こらないいか、28ピンDIPパッケージ品を入手し、24ピン変換基板を作成して動作確認を行う

NMOSの27128系EPROMを何種類か試してみました。
EXCEL製、XICOR製のNMOS EEPROMは、動作しませんでした。電源が安定するまで動作しない仕様のようです。次に、AMD製のNMOS EPROMを確認しましたが、動作しませんでした。その後、諦めかけていましたがTOSHIBA製のNMOS EPROM、TOSHIBA製TMM24128APを入手し、動作確認したところ、電源スイッチングに耐えることがわかりました。ラッチアップ現象が発生しやすい製品とそうでない製品との差は、各社の製造プロセス差やサブストレートバイアス回路の違いで発生しているのではないかと推察します。

TOSHIBA製TMM24128APにはOTPタイプのフラットパッケージ TMM24256AFがあり、市場に在庫があるようですので、カプセルスロットにちょうど入る専用基板を作成することにしました。TMM24256AFは、容量が32KBですので、16KBカプセル2個分を入れることができるため、'CHS-01B'というSO-typeのスライドスイッチで切替できるようにしました。最初の試作では、EPROMのA14を+5Vと0Vに切替できるようにしましたが、+5Vの時、プログラム実行中にハングアップしてしまいました。この現象は、何が起こっているのかはっきりわかりませんでしたが、対策として、+5Vを分圧して+3Vに落としたところ、問題なく動作しました。結果的には、ラッチアップ現象が発生する条件が発生したと思われます。

下記は、専用基板の使用部品です。
・TMM24256AFにEPROMライターで
 書き込みする。このとき、SOP-28用の
 書き込みアダプター(*)が必要になります。
・カプセルスロットに入るように、
 基板のバリをヤスリで削る
・SMD部品(抵抗・コンデンサは、
 1608mm 0603inchサイズ)を
 はんだ付けする
・TMM24256AFをはんだ付けする
・半田付け状態をルーペで確認する


・0.5mm角ヘッダーの黒いプラスティック
 部分を端に移動する
・0.5mm角のヘッダーはんだ付けする
・カプセル取り出し用の紐を取り付ける


(*)TMM24256AFは、幅11.8mmと広いタイプのフラットパッケージですので、「FP-28-127-07」または「OTS-28-1.27-23」という変換ソケットが必要になります。
今回は、入手難のため、「OTS-28-1.27-04」を分解・削り出して、無理やり幅広くして使用しましたが、非常に大変でした。(お勧めしません)







次の写真は、完成したカプセルです。設計上、TMM2464AF x 2、TMM24128AF、TMM24256AFを使用して、16KBカプセルを実現できます。詳しくは、回路図(後段の公開ZIPファイル中にあります)の注釈部に実装オプションの記載があります。























次は、そのカプセルをプログラムスロットに取付た状態です。



EPROMの書き込み・基板の組立・カプセルの接触状態に問題無ければ、プログラム名がメニュー表示されるはずです。

同じようにのこの基板を製作したい方(個人利用のみ、商用利用は禁止)は、
回路図・外形・ガーバーファイルを自己責任にて使用してください。
基板の発注先は、JLCPCBがお勧めです。下記は、切り外し前の基板外観です。




マイクロカラーテレビ「TR-101CT」の修理 ~ 電解コンデンサの罠

2022/12/17

 久しぶりのアップになりました。

松下電器産製 Nationalブランド1983年製造の「カラー Solo ナショナル マイクロテレビ 1.5型 TR-101CT」の修理です。グッドデザイン賞受賞モデルだそうで、手のひらに乗る重さ600gのブラウン管カラーテレビです。ただし、充電電池8本を入れると、1kgに近づきますが、手のひらサイズには変わりがありません。

このモデルは、当時、主に産業向け製品を生産していた藤沢テレビ事業部が産業向けブラウン管技術を使用した民生用小型ブラウン管(超微細ドットピッチ0.25mm)を開発し、世界でもっとも小さなブラウン管カラーテレビとして、世界展開したようです。いまでも中古市場で人気があるようです。


ところが、野心的に小型化するため、小型電解コンデンサを多用しているため、今回のように、まともに動作する中古が少ないと思われます。小型電解コンデンサの劣化モードの検証と修理を行い、地デジチューナのアナログ(コンポジット)出力をUHF変調し、無線アンテナ経由で部屋の好きな場所で見ることができるようにしました。パソコン作業中にテレビを横目で見れるようにもなりました。


まず、TR-101CTの入手です。当時は、回路図・基板パターン図が添付されていましたので、これが付いているもので、電池漏れがないものをヤクオフで落札しました。

TR-101CTの状態は、チューニング位置によってブラウン管がわずかに発光し、ノイズ音声がでました。外部ビデオ入力をしましたが、ほとんど画面の変化はありませんでした。最初は、調整で逃げ切れるかもしれないと思っていましたが、基板の状態を確認すると、やはり電解コンデンサの液漏れが所々で発生していました。この時期(80年代製品の修理では注意)、電解コンデンサの小型化・低等価直列抵抗化を進めるために「第四級アンモニウム塩」の電解液が使用され始めたようで、強アルカリ電解液であるため、電極酸化膜のピンホールによる性能劣化、ゴムパッキンの劣化による漏液でプリント基板銅箔の腐食に進行してしまいます。


全電解コンデンサを交換するのが万全ですが、本数が多いので、劣化した電解コンデンサを特定し、交換することにしました。また、プリント基板銅箔の修復もせざるを得ない状態でした。

①劣化電解コンデンサの特定と交換

・小型品の電解コンデンサ(特に低電圧・大容量)

・リップル電流が大きい初段平滑コンデンサ

・リード線が変色している電解コンデンサ

・リード線が変色していなくても、上記品と同じ電解コンデンサ

以上を取り外し、LCRメータで、特性確認すると、大半が不良でした。検査した電解コンデンサの状態を参考までに、掲載します。


容量抜け・高周波特性劣化・漏れ電流増加・ESR増加など、典型的劣化パターンが網羅できそうです。びっくりでした。


②プリント基板銅箔の腐食部分の修復

電解液漏れで変色してしまっている銅箔部分のレジストを工作ナイフで削り、銅箔をむき出し後、銅箔の腐食膜を削り、正常に導通できているか確認します。もし切断部分があれば、銅箔(銅線)でブリッジして銅むき出し部分全体を半田メッキします。

今回は、IC301の下部の銅箔が腐食していたので、IC301を取り外して修復しました。


③ブラウン管関連の調整

電解コンデンサの問題が大半で、他の部分は問題ないことが多いため、ブラウン管関連の調整のみを行いました。ブラウン管ドライブIC302の左上2つのドライブトリマを左にいっぱいに回し、右側縦2つのカットオフトリマを左にいっぱいに回します。これで緑のみが表示されることになります。

適当なビデオ入力をして、本体の右側の"Color"最小、"Bright"中央、"Contrast"最大に調整して白黒画面表示にします。フライバックトランス部上部のブラウン管に近い方のスクリーン調整ボリウムを適当に回し、緑色画面がきれいに出るようにします。

この状態でIC302の右側縦2つのカットオフトリマを徐々に右側に回し、暗い部分が白色発光するようにします。次に、IC302の左上2つのドライブトリマをを徐々に右側に回し、明るい部分が白色発光するようにします。さらに、明るさに関わらず全体に白色発光するように上記を繰り返します。


以上でうまくテレビが動作しない場合は、別途、オシロスコープ等で、問題を解決する必要があります。


④アナログ(コンポジット)高周波変調器

ゲーム用のRF変調器を流用することも考えましたが、VHF帯のみにしか使えないので、アマゾンや、eBayの「RCA-RFアダプター ビデオコンバーター」を改造しました。写真のように出力ポート側にもスイッチがついている製品が必要です。この製品は、元々中国向けの製品で、出力周波数や、ビデオ形式が日本向けNTSCではないので、内部のマイクロコントローラを入れ替える必要があります。また、ケーブル接続を前提にしているため、出力電圧が10uV台と微弱になっています。

そこで、日本のNTSCに対応してL-VHS、H-VHS、UHFの切り替えとチャネルL/H切替をできるようにするため、内部のMC44BS373類似の中華モジュレータのプログラム内容をキャプチャし、日本向けプログラムをするPIC12F1822ファームウェアを作成しました。

参考までにRFモジュレータファームウェアを公開します。


オリジナルのマイクロコントローラを外して、PIC12F1822の電源端子極性を間違わないように入れ替える必要があります。スペースの余裕があったので、DIPソケット経由でジャンパ配線を行いました。また、RF出力をアンテナから飛ばすことができるように20dBゲインのLNA(NBB-500等、適当なMMIC)をカスケード接続で40dBまでブーストし、1mW弱程度(電波法令の小電力規制内)の出力をUHF用受信アンテナに給電して部屋内部で見ることができるように電波を飛ばしました。



結構苦労しましたが、目論見通りできました。参考にしてもらえればと思います。

(再クロール更新:2022/12/22)